日本市場への参入とその進出形態
競争力のある製品、ソリューション、サービス、優れた顧客サポート、そして綿密に計画された戦略を持ち合わせていれば、日本市場での成功を大いに望めます。
又、日本進出の費用、経路、ロジスティクスなどを念頭に置いて進める事によって、想定より早く市場進出を成功へ導く事も可能です。しかしながら、海外企業が参入しづらいと言われる日本市場でいち早く成果を出すのは非常に難しいのも事実です。その為、どのような企業形態で進出するかなど、綿密な「参入戦略」を練る事は必要不可欠です。
この記事では日本でビジネスを始める際にいくつか重要なポイントと、それが市場参入戦略の中でどのような役割を担うのかをまとめました。
日本市場
- 小売り – 日本は、世界第3位の世界経済とEコマース市場を有しており、アジアにおいて大きな影響力を占め、流行の発信地となっています。
- 自動車分野 – 日本は自動車大国であり、自動車部品、技術、専門知識において最大の市場です。
- バイオ・ヘルスケア – 最先端テクノロジーにより、日本はバイオ・ヘルスケア分野と関連するテクノロジーにおいて重要な位置を占めています。
- IT – 日本はデジタルメディアを含めたIT業界において、継続的な発展をしております。
- コーポレートガバナンス – 2015年に新しいガバナンス・コードが東京証券取引所及び金融庁により導入されました。財務管理に力を入れると共に、日本への外国投資をさらに誘致するよう株主への利益を向上させる為のガイダンスと枠組みが記載されています。
- 起業活動 – Global Entrepreneurship Monitorによると、日本の総合起業活動指数 (Total Entrepreneurial Activity: TEA) は近年一貫して増加しており、2019年には前年の5.34%から5.35%に伸びました。
日本市場参入
多くの企業は市場進出の手始めとして、現地パートナーとの提携か、販売代理店形態の契約を選びます。言語の壁を気にする必要がない、流通経路などを一から築いていく手間を省く事ができる、法人設立時のビジネス要件や法的要件などを避けられるなどの大きなメリットがあり、迅速にエンドユーザーへアクセスする事ができるからです。
販売代理店形態
販売代理店形態は販売店(日本企業)が製品やサービスを仕入れ、販売を行う形態を言います。自社で生産と開発をして商品を卸し、流通や在庫管理などを販売店に行ってもらう事になります。
初期投資費用が低く、リソースを注ぎ込みすぎる事なく製品を提供する事ができますが、自社の利益は販売価格のみで、転売差益は販売店のものです。又、他社に流通を任せているので、本格的に日本へ参入する準備をするという意味では不十分かもしれません。
販売代理店形態の場合は特に、自社と販売店との役割を明確にしておく事が重要です。販売店が製品に対して独占的な権利を持っているか、持っている場合はどのぐらいの期間か、自社が販売代理店形態以外の形で日本進出をする予定なのかなどを考慮して契約を行う必要があります。
販売代理店形態は既に確立されている商流を通して、日本市場に参入する事ができます。
ライセンス契約
<ライセンス契約も同じく低コストで日本市場に商品を売り出す事が可能な方法です。ライセンス契約とは、製品やサービスの権利や製造技術をライセンシーが保有し、日本でライセンシーが商品を製造、販売をする方法です。多くの場合、地域の特性に合わせて製品をカスタマイズする権利も含まれます。
ライセンス料を得られると共に、市場開拓をする手間を省く事ができますが、ライセンシーに任せている部分が大きいので、経験を積む事はあまり期待できません。
合弁会社(ジョイントベンチャー)
手続きが複雑になりますので、ジョイント・ベンチャーは多くの企業が敬遠しますが、得るものも多くあります。リソースや知識などを共有し、連携して事業を進めていくので、
日本企業が多くの時間をかけて今まで培ってきたノウハウなどを学ぶ事ができます。一方でパートナーを見つけて関係を築いていくのに多大な労力を使うかもしれません。
法人設立とは?
企業が次に検討すべきなのは、正式に日本で独立した法人を設立する事です。本格的な参入でリスクや投資額が増えますが、日本での成功に必ず結びついてきます。. 又、多額の投資や流通経路の確保という難題はありますが、それ以上に大きな価値を見いだす事ができます。
法人の形態
外国法人は、駐在員事務所、支店、現地法人という形で日本に事務所を置く事ができます。
駐在員事務所
駐在員事務所を設立しても事業そのものを行う事、銀行口座を開ける事はできません。できる事が制限されてはいるものの、駐在員事務所は本格的な日本進出の下準備をするのに適した形態です。広告宣伝、マーケティング、市場調査などの利益をあげる事を目的としない活動が許されています。
駐在員事務所は市場調査、マーケティング、 広告宣伝などの拠点として設立されます。
駐在員事務所の登記
駐在員事務所を設立しても、登記の必要はありません。税金や監査の対象にはならず、法的には財務記録や対内投資の申告する必要がないのも良いところです。
反対に、駐在員事務所名義で銀行口座の開設や不動産の賃貸はできません。その為、契約書を作成する時には本社か駐在員事務所の代表者が署名する必要があります。
日本支店
海外支店は法律上、日本法人ではなく外国法人として扱われます。支店単独で大規模な事業活動を行う事がないので、海外支店の損益は本社のものと合算されます。
支店は支店所在地が確定して、必要な書類が処理され次第活動を始められます。駐在員事務所と違い、支店は銀行口座を開設したり支店名義で不動産を賃貸できるのが大きな利点です。払込資本金、出資金はなく、代表者以外の取締役を選任する必要もありません。一方で、
支店は「準外国会社」 と見なされていますので、税法、労働法、製造物責任法を含む日本の法律を順守しなければいけません。
支店の登記
支店は、管轄の法務局に登記を申請しなければいけません。本社の取締役会は、正式に日本支店を登録する事へ同意する必要があります。又、支店の代表者は、日本に住所を有している者でなければいけません。代表者は宣誓供述書を日本語で作成し、大使館で公証してもらう必要があります。
子会社の設立
子会社は親会社とは別法人であり、独立した会社として現地の法令に順する事になります。設立する際は、株式会社、合同会社のいずれかから選択します。
- 株式会社 – 一定数の株式を発行し,各社員(株主)が株式の引受価額を限度として出資義務を負う会社
- 合同会社 – 有限責任社員のみで構成される会社
それぞれ全く別の特徴を持つ会社形態なので日本で行う事業に応じて、慎重に決めていく事が大切です。判断が難しい場合は、アドバイザーやコンサルタントに相談するのが良いでしょう。
事業の特徴に応じて、株式会社と合同会社のどちらを設立するのか慎重に決めていく事が大切です。
子会社の登記
子会社も、管轄の法務局に登記を申請する必要があります。設立証明書、宣誓供述書、登録証明書は子会社自身が作成しますが、子会社が全ての提出書類を作成するわけではありません。会社概要や日本子会社の代表者などに関する書類など、いくつか親会社が作成する書類があります。又、親会社が子会社を設立するのを決定した事を証明する書類や、資本保管に関する書類を提出しなければならない場合もあります。
日本の税金
法人登録されると、日本の法人税、源泉徴収税、消費税などの税制が適用されます
法人税
払込資本金の額にもよりますが、日本の法人税率は約30~35%です。法人税には以下のようなものがあります。
- 所得税
- 地方所得税
- 地方法人税と地方法人特別税 (資本金の額が1億円を超えない会社)
- 外形標準課税と地方法人特別税 (資本金の額が1億円を超える会社)
- 法人住民税
源泉徴収税
源泉徴収の対象となる企業は親会社への従業員の支払いやロイヤリティに関する税金を差し引いて、源泉徴収税を支払う必要があります。個人か法人に関わらず、所得の受取人に基づいてその種類と税率を計算します。
HLSグローバルの税務サービス部門では、海外企業が日本で事業をする際に必要な申告書の作成や国際税務コンサルテーションを行っています。お問い合わせはこちらから
消費税
資本金が一千万円以上の日本企業は、国内すべての消費者に発行された請求書に対して10%の消費税を支払わなければいけません。他国では一般的にVATとして知られています。
日米租税条約
日本の租税条約の中には、日本に進出した企業に対する租税負担を軽減するものが多くあります。日米租税条約は特に顕著で、源泉徴収税を0%に引き下げる取り決めもあります。日米租税条約の一例として以下のようなものがあります。
- ロイヤルティーに関する源泉徴収税の免除
- 配当金に関する源泉徴収税負担の軽減
- 利息への源泉徴収税の免除
租税負担が軽減される事によって、双方の市場取引がより展開しやすくなっています。
労働法
日本での人事や労働に関するコンプライアンスは本国の労働法と似ている部分が多いかもしれませんが、細かい部分で異なる場合があるかもしれません。労働基準法、労働契約法、労働者派遣法、労働安全衛生法、最低賃金法などに目を通しておく必要があるでしょう。
上記の法律は全ての日本企業に適用されます。又、対象には現在日本で雇用されている外国人労働者も含まれます。日本に10人以上の従業員を抱える企業は、就業規則の概要を示す文書を労働基準監督署に提出し、従業員に知らせなければいけません。日本の労働法を遵守する上で以下のようなものを考慮する必要があります。
- 労働時間
- 休憩
- 時間外労働
- 年次有給休暇
- 産前産後休業
- 育児休業
- 介護休業
- 解雇
日本市場参入戦略の構築方法
パートナーを探す
良い現地法人のパートナーを選ぶ事は、後々大きな助けになります。ジョイントベンチャー契約や販売代理店契約を結ぶパートナーを検討する際は以下のような項目を重点的に比較しましょう。
- 市場に関する知識と経験
- 販路
- 評判
- 資金源と支援
- 進出を支援する意志
- 将来競争相手になる可能性
パートナーなしで日本進出を考えている場合でも、現地アドバイザーを探すのは一つの手段です。アドバイザーは、法人化の手続きに関するサポートは勿論よりスムーズにビジネス開発、市場調査、運用サポート、ローカリゼーションを進めたい時に相談する事ができます。
HLSグローバルでは、お客様に合わせたサポートやアドバイスを通じて、企業が日本市場戦略をより円滑に実施できるよう支援してきました。上場している米国企業のテクノロジー市場に関するマーケット調査を支援する事例や、半導体製造分野のスタートアップ企業に対するマーケティング/セールス・サポートを提供する事例など、HLSグローバルが市場進出サポートした事例は多くあります。
パートナーなしで市場進出する場合でも、ビジネス開発、市場調査、運用サポート、ローカリゼーション等を支援できる日本の市場参入アドバイザーに相談してみましょう
製品とコンテンツのローカライズ
日本市場への参入を成功させる為には、ローカライズが不可欠です。ローカライズとは単に英語から日本語へ訳すというだけではありません。「現地化」という言葉から分かるように、消費者の動向や行動に合わせて製品やコンテンツを修正し、市場へ売り出す事も含まれています。
製品やサービス自体でも、コンテンツの出力やマーケティング活動のみでも、ローカライズする為には前もって準備する事が必要です。母国で人気の製品が必ずしも日本で流行る訳ではありません。文化が違う事によって他国で通じていたものが通じなかったり、逆にブランドへマイナスイメージを持たせててしまう可能性もあります。自社製品を日本人好みのものにしてから市場へ進出する事は、成功への大きな第一歩と言えます。
製品以外にも、納税申告書や会社の構造に関する文書など、重要な文書を扱う際には細心の注意を払う必要があります。言語が違っていても、内容が同じようにしなければいけないからです。言語一つとっても、日本語に精通している従業員がいない限り、自社でローカライズを行うには限度があります。現地サポートを受ける事で日本進出のどの段階においても、コミュニケーションの齟齬無くコンプライアンスをしっかりと遵守する事ができます。
バイリンガル
2か国語以上でビジネスを展開していく事は想像以上に大変です。それを見落としてコミュニケーションや翻訳に対する予算を組まなかったり、限られた予算しか組まない企業は、日本で成功する事が難しくなります。日本の会計と税務のサポート、ロジスティクスなどについて尋ねられるような人材を見つけるのは勿論ですが、外国人労働者、現地チーム、現地パートナーの間を埋める為に翻訳に長けており、ローカリゼーションをする為のアドバイスができるような人材は必須だと言っても過言ではありません。
人材獲得
日本には、民間の人材紹介会社をはじめ、さまざまな方法で人材獲得をする事ができます。現地採用を考えている場合は、人材紹介会社が外資系企業へ人材紹介をした際の成功率や人材紹介の詳細を調べておく必要があります。日本には新卒を含め、様々な職務経歴をもつ人材を紹介している会社や、エグゼクティブ、ヘッドハンタースタイルなど、特定の層に特化した人材紹介をする会社など様々な人材紹介会社があるからです。
又、人材を採用するにあたって、日本の労働法を考慮する必要があります。事前に社労士と相談する事も大切です。
市場競争の理解
市場競争の難しさから日本を避ける企業は沢山います。ですが始めにご説明した通り、競争力のある製品、ソリューション、サービス、優れた顧客サポート、そして綿密に計画された戦略を持ち合わせていれば、十二分に日本市場での成功が望めます。そして、市場競争への理解は日本での成功を大きく後押しします。
日本市場では特に参入のタイミングが大きな鍵になります。日本のビジネスはとても保守的で、消費者や企業は同じブランドやサプライヤーを使い続ける傾向にあります。ですので、一番先に市場に参入したというだけでも、他社に大きな差をつける事ができるのです。
優れたサービス、品質は勿論ですが、他より早く得意先を増やす事ができれば、より優位なマーケットポジションを築く事ができます。
立地
どこに事務所を置くかという事は、日本市場参入戦略の成功に大きな影響を与えます。自社の特色に合った場所に事務所を建てる事はとても大切です。
東京23区
長期的に日本でビジネスをしようとしているのであれば、東京を選ぶと良いかもしれません。多くのグローバル企業がすでに本社や主要支店を23区内に置いています。
日本の消費者動向の多くは東京発のものであり、市場の変化を先取りし、独自の商品・サービスを提供していくのに適した場所です。家賃やオフィススペースの賃貸費用が高いのは難点ですが、高所得消費者の比率が高いのも特徴です。又、日本政府規制機関が近く、交通網の中心地に位置しています。
日本の消費者動向の多くは東京発のものであり、市場の変化を先取りし、独自の商品・サービスを競争前に提供する上で有利な立場にあります
関西(大阪, 京都, 神戸, 等)
関西には大阪の大都市圏、政治・文化の重要拠点である京都に加え、主要な港湾都市である神戸があります。食品、繊維、電化製品など、さまざまな経済基盤に支えられているのも関西です。それだけではなく、関西には多くの中小企業があり、エネルギー、製造、自動車の各分野で世界的に成功しています。
九州
九州は日本の半導体総生産の大きな割合を占めています。又、「シリコンアイランド」、「カーアイランド」、「グルメアイランド」、「ソーラーアイランド」とも呼ばれ、人口は1,200万人を超える一大都市群です。九州の主要都市である福岡市は経済・教育・文化の中心地になっています。主に金融、保険、不動産のサービス産業が盛んですが、製造業と農業も根強く残っています。
チェックリスト
- 市場参入戦略と会社設立構造を選ぶ
- 登録・開設に必要な手続きを理解する
- 手続きとビザに関する要件を理解する
- 日本の法人税について知る
- 日本の労働法について知る
- 市場における戦略的利点を考える
- 会社設立に適切な場所を選ぶ
まとめ
日本に進出するとなると、多くの事を考慮しなければいけません。市場を理解する事から始まり、質の高い製品・サービスの提供をしているかどうか、コンテンツや製品をしっかりとローカライズ出来ているのか等を一つ一つ精査していく必要があります。
資金の投入以上に大切なのが、こうして計画立てた上で事業を展開していく事、そして上手く現地のアドバイザーやパートナーのサポートを併用してく事です。HLSグローバルは日本市場への進出やビジネス拡大を検討している企業に様々なサービスを提供しています。