中規模法人のための移転価格セミナー

※以下は、上記セミナー全11回のうち第2回を掲載しています。

(第2回)移転価格税制の概要

 

1.移転価格税制の基本条文

移転価格税制については、財務省のホームページでは「企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる」ことから、「移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度」であると説明されています。

ここで、移転価格税制を規定した租税特別措置法第66条の4第1項の条文の構成をみてみましょう。

  • 法人が、
  • …当該法人に係る国外関連者(…)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、
  • 当該取引(…「国外関連取引」という。)につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、
  • …当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。

と規定しています。

2.基本条文におけるキーワード

移転価格税制の基本条文におけるキーワードは「法人」、「国外関連者」、「国外関連取引」及び「独立企業間価格」ですが、前3者は、次の(1)のとおり、税法の概念として定着しているか、税法の規定で明確です。一方、「独立企業間価格」については、次の(2)のとおり、実際の取引金額とは別に税法独自で取引金額を算定するというもので、複数の算定方法が規定されていますが、具体的にどの算定方法により、どのように価格を算定するのかが法令だけからは分かりにくくなっており、実務経験がないと価格が算定できないのが現状です。

(1)「法人」「国外関連者」「国外関連取引」

  • 法人
    • 「法人」は、法人税の課税対象となる法人(内国法人又は外国法人)のことですが、ここでは、個人企業については移転価格税制の適用がないと理解しましょう。
  • 国外関連者
    • 「国外関連者」とは、外国法人で、法人との間に、持株関係、実質的支配関係又はそれらが連鎖する関係の「特殊の関係」のあるものをいいます。
  • 「持株関係」とは、①いわゆる「親子関係」として、二の法人のいずれか一方が他方の法人の発行済株式等の50%以上の株式等を直接又は間接に保有する関係をいい、また、②いわゆる「兄弟関係」として、二の法人が同一の者によってそれぞれその発行済株式等の50%以上の株式等を直接又は間接に保有される関係をいいます。
  • 「実質的支配関係」とは、例えば、他方の法人の役員の2分の1以上又は代表権を有する社員が、一方の法人の役員若しくは使用人を兼務している等の事実により、二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係をいいます。
  • 「持株関係と実質的支配関係とが連鎖する関係」とは、法人と外国法人との間が、持株関係又は実質的支配関係の一方又は双方で連鎖している関係をいいます。
  • 国外関連取引
    • 法人が、その国外関連者との間で行う棚卸資産等の資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引をいいます。 

(2) 「独立企業間価格」

  • 国外関連者との取引が、その取引と同様の状況の下で非関連者間において行われた場合に成立すると認められる価格をいうと説明されています。

上記(1)の3つの用語については、事実関係を確認すれば明確になりますが、「独立企業間価格」については、法律に規定された「独立企業間価格の算定方法」に従って算定された価格ではありますが、ほとんどの場合、自社及び国外関連者が作成・保有する資料からだけでは算定できないという問題があります。

「独立企業間価格の算定方法」については第4回以降に解説します。

3.法令、通達、事務運営指針、その他の参考資料

移転価格税制の実務においては、法令、通達のほか、事務運営要領(事務運営指針)が大きな役割を果たしています。また、国税庁はその他にも参考資料を公表しています。

参考のため次に列挙します。

  • 租税特別措置法第66条の4 ~ 第66条の4の5
  • 租税特別措置法施行令第39条の12 ~ 第39条の12の4
  • 租税特別措置法関係通達66の4(1)-1 ~ 66の4(10)-1
  • 移転価格事務運営要領(事務運営指針)
    • 1-1 ~ 5-3(課税)
    • 6-1 ~ 6-24(事前確認)
    • 別冊 「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「国税庁移転価格参考事例集」といいます。)
      • 事例1~事例26(課税)
      • 事例27~事例28(事前確認)
  • 「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」(平成29(2017)年6月
    • 移転価格に関する国税庁の取組方針~移転価格文書化制度の整備を踏まえた今後の方針と取組~
    • 移転価格税制の適用におけるポイント~移転価格税制の実務において検討等を行う項目~
    • 同時文書化対応ガイド~ローカルファイルの作成サンプル~(以下「国税庁ローカルファイル・サンプル」といいます。)
  • 「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)(平成29年8月)」
  • 「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)作成に当たっての例示集(平成28年6月)」(以下「国税庁ローカルファイル例示集」といいます。)

以上

※《中規模法人のための移転価格セミナー》の次回掲載は来月の予定です。

本セミナーおよび移転価格に関するご質問・ご要望は、HLSグローバルJapan@HLS-Global.jpまでお問い合わせください。

 

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