ドイツ税務のアップデート2024年7月

  1. 2拠点生活費として許容される自宅と職場間の距離について
  2. インプットタックスの還付手続:申請書の提出期限は2024年9月30日
  3. 売上税(VAT):現物寄付の取り扱い
  4. 賃金税:ホームオフィスは通常、雇用主の恒久的施設には該当しない
  5. 給与・福利厚生:バイク通勤で節税する方法
  6. インフレ補償プレミアム: 2024年末まで非課税での支払いが可能

  1. 2拠点生活費として許容される自宅と職場間の距離について

昨今、多くの業種でホームオフィスが重要な役割を果たしていますが、労働市場ではある程度臨機応変に通勤できる人材も求められています。一方で、自宅と職場の距離が遠い場合、毎日のように通勤できない人もいます。このような場合、職場の近くにアパートを借りる方が効率的なことが多く、アパートの賃貸に要する費用は一定の限度額までは所得関連費用として必要経費への算入が認められています。

ここで論点になるのは、所得関連費用として認められるためには自宅から職場までの距離はどの程度以上離れていなければならないかという点です。これに関して、ミュンスター租税裁判所(FG)が関連する判決を下しました。

原告はS市に自宅を持つ夫婦でした。原告夫婦は、2018年8月からE市にあるH GmbH & Co KG社の代表取締役を務めていました。S市の自宅からE市の職場までの距離は30kmであり、2020年2月に原告は職場から約1km離れたE市にセカンドハウスを借りています。なお、それまではD市に休暇用の別荘を借りていました。

 

原告はD市とE市での賃料、D市からE市への転居費用、その他これらのアパートに関連する費用を所得関連費用として必要経費に計上し税務申告を行っていました。また、プライベートでも使用する社用車も所有しており、プライベート使用分は1%ルールに従って課税所得として申告していました。税務署は、自宅から職場まで毎日自動車で通勤する方が合理的であるとし、アパートに関する費用を所得関連費用として認めないという判断を下しました。

原告は税務裁判所に提訴しましたが、控訴審においても原告の主張は認められなかったのです。裁判所の見解では、原告の自宅と職場との間の距離は2拠点生活費を所得関連費用として認めるほどに離れていないとしています。原告はグーグルマップのルートプランナーを提示し、約30キロ離れたS市の自宅からE市の職場まで、通勤時間帯であれば車で50~55分ほどの時間がかかると主張していました。

しかしながら、所要時間は通常時の時間帯を基に判定すべきであり、原告の主張のように道路工事のために所要時間が長くなる場合があることは考慮すべきではないとされました。通期時間帯以外では、グーグルマップのルートプランナーによる所要時間は約30分であり、実際、原告は、セカンドハウスと職場間の短距離を含め、すべての移動に社用車を使用していたため、公共交通機関による所要時間も考慮すべきではないとされました。

  1. インプットタックスの還付手続:申請書の提出期限は2024年9月30日

 

一定の条件の下、EU加盟国は、国内事業者が商品またはサービスを常態として供給していない(従って、VATの登録が義務付けられていない)他の加盟国での活動に関して支払ったVAT(インプットタックス)を還付します。

事業者が還付を請求する場合、自国の税務当局に還付請求書を電子送信する必要があり、税務当局は事業者の身元、VAT識別番号、還付請求の妥当性を確認します。還付請求は、税務当局からVATが支払われた加盟国に転送されます。

 

2023年に係る還付申請は、連邦中央税務局のオンライン・ポータルを通じて2024年9月30日までに提出する必要がありますのでご留意ください。

  1. 売上税(VAT):現物寄付の取り扱い

 

金銭だけでなく、品質にほとんど問題がない物品も寄付の対象とされることがあります。連邦財務省のFAQにおいて、物品の寄付が寄付者の立場からどのように扱われるべきかについて記載されています。

 

現物寄付は、事業者が購入時に前段階税(input tax)を控除できる品目であれば、「無償の価値移転」としてVATの課税対象となるとされています。現物寄付の課税対象額は、寄付時点の想定購入価格とされます。事業者の過去の経験もしくは購入価格の見積額に基づき、適切に想定購入価格を算定しなければなりません。なお、寄付を行った事業者は、無償贈与の記録を保存しておく必要があります。

現物寄付として想定購入価格に売上税が課税される事態を避けるために、物品を大幅に値下げして販売することができます。関連当事者への販売など一部の例外を除いて、原価を大幅に下回る価格での売却の場合であっても、売却時の評価基準は実際の販売対価となります。ただし、販売の対価として受領した金額が単に象徴的な価格(想定購入価格の5%未満など)である場合には寄付とみなされる場合があることに留意が必要です。

  1. 賃金税:ホームオフィスは通常、雇用主の恒久的施設には該当しない

 

給与所得に対する所得税は源泉徴収により賃金税としてドイツで課税されます。これは、ドイツに住所、常時滞在場所、経営登録事務所または恒久的施設を有している雇用主から給与が支払われる場合です。つまり、ドイツに所在する恒久的施設によって給与が支払われる場合には、国外に居住する従業員の給与に対する課税権もドイツにあります。これは、賃金が恒久的施設の経費として計上され、課税所得を減少させることに対応しています。
 

この点、税務当局は従業員の在宅勤務は一般的に雇用主の恒久的施設の設立にはつながらないことを明確にしています。

これは以下の場合にも適用されます。

  • ホームオフィスとその設備にかかる費用を雇用主が負担する場合
  • 雇用主と被雇用者との間で被雇用者の自宅の賃貸契約が結ばれている場合。ただし、雇用主がその敷地を他の目的で使用することを許可している場合(例えば、その敷地に他の被雇用者を派遣する権利を与えるなど)を除く
  • 雇用主が従業員にホームオフィス以外の別の勤務場所を提供しない場合

ただし、従業員が対外的なマネジメント機能を有する場合は、恒久的施設が存在するとみなされる可能性がありますので留意が必要です。

  1. 給与・福利厚生:バイク通勤で節税する方法

雇用主は、通常の給与に加えて、減税効果のある、あるいは完全に非課税となる非現金給付を従業員に付与することができます。現在、人気の給付のひとつが、いわゆるジョブ・バイク(e-bikeと呼ばれることが多い)を従業員に支給する方法です。自転車を使用する権利を給与の上乗せとして支給するのか、給与の一部として支給するのか(給与を減額する)により税務上は違いがあります。概要は次のとおりです。 

  • 給与の上乗せとして自転車を使用する権利を付与する場合: この方法では、自転車の所有権は雇用主にあり、従業員には通常の給与に加えて自転車を無料で利用できる権利が付与されます。雇用主が自転車を購入した場合、7年間で減価償却が可能です。また、自転車をリースにより調達することもできますが、従業員が非課税で自転車を利用するためには、雇用主が毎月のリース料全額を負担しなければなりません。この方法により、雇用主は賃金以外の人件費を節約できるだけでなく、自転車のリース料、保険料、点検・整備料を経費として計上することができます。この場合、従業員は業務用としてだけではなく、私用で自転車を使用したとしても課税されることはありません。この特例は2019年1月1日から適用が開始され、2030年12月31日に終了します。
  • 給与の一部を自転車のリース料相当額とする場合: この方法では、雇用主が自転車を無償で従業員に提供することはせず、従業員がリース料相当額を負担することになります。従業員は自転車をリースにより利用することができ、私的使用分についても税優遇を受けることが認められています。この場合、雇用主は自転車のリース会社とリース契約を締結し、毎月のリース料は従業員の給与から差し引いてリース会社に支払われます。リース料相当額は課税対象となる給与に該当せず、社会保険料の対象にもなりません。従業員にとっては、自転車を使用することによる費用負担は相当程度低くなり、通常はリース料の半分以下の負担となります。

  1. インフレ補償プレミアム: 2024年末まで非課税での支払いが可能

2024年12月31日まで、雇用主は従業員に対し、最大3,000ユーロのインフレ調整賞与を非課税で支給することができます。連邦統計局によると、ドイツで労働協約が適用されている従業員の4分の3以上が、労働協約に従って既にこのような特別賞与の支給を受けたか、2024年末までに受ける予定とされています。しかし、未だ特別賞与の支給を受けていないあるいは受ける予定の無い従業員も多数いると思われます。

 

税制立法者は、所得税法において、2022年10月26日から2024年12月31日までの期間に対応する手当を定めています。

雇用主は、従業員1人当たり年間総額3,000ユーロを超えない限り、インフレ調整賞与の支給額を自由に決めることができます。分割での支給も認められているため、現在支給額の合計が3,000ユーロに満たない従業員は、2024年12月31日まで雇用主から限度額に至るまで非課税支給を受けることができます。この支払いは雇用主の任意ですが、上司に尋ねてみる価値はあるかもしれません。

この特別支給は、給与明細にインフレ調整賞与である旨を記載し、給与勘定にもその旨を明記しておく必要があります。インフレ調整賞与は、フルタイム、パートタイムに関係なく全ての従業員に支給することができます。なお、インフレ調整賞与は非課税であるため、所得税の申告対象とする必要はありません。

免責事項:当サイトに掲載された情報は情報提供のみを目的としたものであり、その内容について何ら法的保証をするものではありません。この情報はあくまで参考であり、適用される法律の改正や変更があった場合には変更される事になります。出来る限り正確な情報の掲載に努めて参りますが、必ずしも安全性・信頼性・正確性などを保証するものではなく、本記事の省略および誤りにより引き起こされる損害等について、当社は一切の責任を負いかねます