日本の移転価格税制 「金銭の貸借取引・債務保証取引」改正のポイント(後編)

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前編では、2022年6月の日本の移転価税制の金融取引に関わる事務運営指針の改正について解説しました。後編では、今般の改正に伴い、関連者間ローンの効率的な運用方法と想定される課題等について検討します。  今回の改正の大きなポイントは、関連者間ローンを実施する際の金利を設定するにあたり、借手(通常、子会社)の信用格付に基づき、適切な金利を算定するという点です。ですので、まずは金利の構造とどのような要因で金利が決定されるかについて考えてみましょう。

ローン金利は、国債や銀行間取引金利等のリスクフリー利率に信用スプレッドを乗せた利率から構成されています。ベースとなるリスクフリー利率は、その国のカントリーリスク、金融政策、通貨の需給バランスといったものの影響を受けますので、通貨毎に異なります。一方、信用スプレッドは、主に借手のディフォルトリスクに対して貸手が得るリターンであり、借手固有の信用度合いによって左右されますが、他にも市場の流動性の影響も受けます。また、金利は短期、中期、長期に分類され、経済状況や金融政策等が、それぞれの期間の金利に影響を及ぼします。

  1. 関連者間ローン金利の設定および運用方法

前述の金利の構造や影響する要因を踏まえると、ローンの利率は、ローンの種類や実施時期などによって異なりますが、その都度算定するのでは、作業が煩雑になります。効率的な運用を行うには、信用スプレッドについては一年に一回、対象となる通貨・ローン期間毎(短期、中期、長期)に算定の上、年間を通して同じ利率を使用し、リスクフリー利率には直近のレートを使用することを推奨します。また、信用スプレッドは、借手の財務状況の変化や市場の影響も受けますので、毎年更新することを推奨します。  なお、信用スプレッドの算定方法については、通貨、信用格付、担保の有無、期間等の条件にもとづき、市場で取引されている類似する債券の実質利回りもしくは公開されている非関連者間でのローン情報にもとづきベンチマークすることが一般的な方法です。

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関連者間ローン金利の運用方法  

管理の単位更新の頻度
信用格付け子会社年に一回
信用スプレッド子会社/通貨/期間(短期、中期、長期)年に一回
リスクフリー利率通貨/期間(短期、中期、長期)ローン実施毎
  1. ローン金利の動向と検討課題

では、実際に、リスクフリー利率と信用スプレッドの最近の動向について見てみましょう。次の二つの棒グラフは、2023年2月23日時点と米国の金融引き締めが始まる前の2021年12月31日時点での信用格付に応じた、ドル建て債券の実質利回りの推移を示したもので、ローン利率(リスクフリー利率+信用スプレッド)をベンチマークする上での参考値です。S&Pによる信用格付(AAA、AA、A、BBB、BB、B)によって分類しており、リスクフリー利率には米国債を使用しています。なお、BBB以上が投資適格格付けとされます。

傾向は次のとおりです。

  • 2023年1月から開始された米国の金融引き締めの影響により、リスクフリー利率は急速に上昇しています。ただし、2023年に入ってから市場は、将来の米国インフレ率の低下とそれに伴う利下げを予想しており、全般的に短期の金利が中期・長期を上回る逆転状況が生じています。(逆イールド・カーブと呼ばれます。)
  • 信用スプレッドはさほど上昇しておらず、相対的には(信用スプレッドが金利全体に占める割合)低くなっていることが分かります。これは債券市場に、より多くの資金が流入して流動性が高まったためと思われます。

インフレ率の悪化やサプライチェーン問題に伴い資金需要が増大する中、金利高騰の影響を受ける多くの企業にとって適正金利を算定するのもさることながら、今後いかに海外子会社の金利費用を削減できるかが重要なポイントになってくると言えるでしょう。これに対しては次の対応策が考えられますが、それぞれのメリット・デメリットがあるため状況に合わせて検討が必要です。

  • 子会社の債務比率の低減
    • 債務の資本化(DES)
    • 債権免除
  • 金利の先行きを検討した上での、借入期間とそれに対応する金利の使い分け
  • ドル建てローンから円建てローンへの切り替え
  • 移転価格税制を利用した親会社への支払いとの調整(ロイヤリティ等)

弊社では、関連者間ローンに関わる総合的なアドバイスをご提供できますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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