日本における移転価格-概要

移転価格は、多国籍企業グループ(Multinational Enterprise Group)内での取引の条件や価格を決定するための、国際税務・会計の一分野です。その結果、異なる国や地域の税務管轄にまたがる関連会社に利益が配分されることになります。

独立企業間価格の設定においては、商品は購入者または販売者による価格操作や価格の歪みがないように市場価格で評価され、独立企業原則(アームズ・レングス)に基づき価格設定されます。

移転価格のメカニズムを利用することで、国外関連者に配分し合法的に税負担を低税率の国や地域に移転することが可能ですが、実際に移転価格を決定する際には、いくつか留意しなければならない重要な点があります。

ここでは、移転価格とは何か、また日本でビジネスを展開する企業にとって広範囲に影響を及ぼす可能性のある、日本における移転価格税制の概要をご紹介します。

移転価格税制は、独立企業間の取引価格(独立企業間価格)では起こりえないような、国外関連者間の取引を通じた所得の海外移転を防止するために導入されていま

BEPSと国際的な租税回避への取組み

経済協力開発機構(OECD / Organization for Economic Cooperation and Development は、主要国を中心に税源浸食と利益移転(BEPS / Base Erosion and Profit Shifting)および世界的な脱税の阻止を目的として、、多国籍企業向けの移転価格ガイドラインを作成しました。

BEPSとは、各国税制の相違点や不整合を利用して、利益を低課税地域または租税回避地に人為的に移転する課税逃れのことをを指します。これは利子やロイヤリティーなどの控除可能な支払いを通じて税源を侵食するとして不当なものとと見なされます。

日本と他の国と地域は、OECDと協力して、国際税務をとりまく環境の一貫性と透明性を向上させるため、移転価格ガイドラインを含む、租税回避に取り組むための15項目の「BEPS行動計画」により調整を図っています。

OECDの加盟国には、米国、カナダ、メキシコ、日本、韓国、オーストラリア、およびヨーロッパ諸国の大半が含まれます。これらの国のすべての多国籍企業グループは、適切な独立企業間価格の算定を行い、活動に関する正確な報告書を作成することが求められます。

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独立企業原則とは

Business meeting of colleagues calculating arm’s length method and transfer pricing in Japan

日本における移転価格税制及びその施行方法は、OECD基準にほぼ準拠しています。すなわち「独立企業原則」を採用し、OECD / G20 BEPSに関する包括的枠組みに定められた主要な措置が実施されています。

独立企業原則では、取引関係にある当事者間の独立性や、競争を行う際の諸条件を平等にする条件が実現していることが前提になります。これは国際税務の重要な原則であり、これにより異なるくにや地域間で利益を適切に配分することができます。

したがって、国外関連者間の取引は、独立企業間価格と同等に設定された価格である必要があります。

国外関連取引には、国外関係者との間の資産(有形資産・無形資産)の売買・サービスの提供・その他取引が該当します。

国外関連者とは、親子関係や実質的な支配関係など、特殊の関係にある事業体です。

独立企業間価格の算定方法

独立企業間価格の算定には、移転価格税制で定められた方法が多く存在します。個別の状況に基づいて、最適なアプローチを決定する必要があります。具体的な算定方法として以下のようなものが挙げられます。

  • 利益分割法(PS法/ Profit split method )
  • 取引単位営業利益法(TNMM/ Transactional net margin method)
  • 独立価格比準法(CUP法/ Comparable uncontrolled price method )
  • 再販売価格基準法 (RP法/ Resale price method )
  • 原価基準法 (CP法/ Cost plus method)
  • Berry Ratio method

移転価格APA(Advance Pricing Agreement / 事前確認)の取得

移転価格APAを利用して、独立企業間価格の算定について税務当局と事前に合意を得ることが可能です。複雑なプロセスと文書作成が必要ですが、ひとたび完了すると日本の税務当局から移転価格についての合意を事前に得ることができます。

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移転価格対応の実例

Business partners discussing transfer pricing in Japan example

ある会社の親会社または子会社(A社)が高税率国に存在する場合、低税率国に存在する別の子会社(B社)により多くの所得を配分することで節税しようとします。

A社がB社に低価格で商品を販売することにより、低税率国に存在するB社の課税所得が大きくなります。その結果、A社での納税負担が減り、会社にとってより多くの所得の確保につながります。

したがって、関連者間の販売価格を独立企業間価格(市場価格)と別の価格に設定することにより、親会社は納税額及び利益を操作することができます。

上記のように企業が移転価格を操作し、租税を回避して企業全体の利益を増やすと同時に、当局の税源を減少させるという事態を防ぐため、税務当局は、独立企業原則に基づいた厳格な規則を定めています。

高税率国に子会社が存在する場合、低税率国に存在する別の子会社により多くの所得を配分することで節税が可能です。

不適切な移転価格に対する罰則

日本市場に参入する大規模な多国籍企業にとって、関連社間の各取引における適正な価格を決定するには通常煩雑な手続きが必要となります

移転価格が適正に設定されていない、または財務諸表を含む書類が税務調査によって根拠として不十分とみなされた場合等、会計上の誤りが税法の違反につながり、罰金や罰則が課せられる場合があります。

また、グループ企業が移転価格税制を利用し、人為的な利益移転や租税回避に関与したとみなされた場合、税務当局から罰金を科せられる場合もあります。

日本の移転価格に関する問題にかかる税務訴訟では、膨大な費用と複雑な手続きが必要です。行政の準司法機関(国税不服審判所)に持ち込まれ、その後裁判所に持ち込まれる可能性があります。

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専門家のアドバイスを受ける

日本企業とその国外関連者との間の取引は、常に移転価格税制の対象となる可能性があるため十分な準備が必要です。

移転価格においては、税制、経済の状況、および会計のプロセスを深く理解している必要があります。したがって企業は、それらの分野に精通している専任のアドバイサーまたは税理士によるアドバイスを受けながら関連者間取引をしっかりと把握しておくことが賢明です。

HLSグローバルでは、移転価格および国際税務会計を効率的に対策し、日本市場に参入する多くの欧米企業を含む国際企業がこのようなハードルを克服するのを支援してきました。

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最後に

key takeaways for transfer pricing in Japan

複数の国や地域にまたがって事業を営む企業は、異なる複数の法律や規制を遵守する必要があります。しかしながらそれらを考慮しても、多様な資源・商品・人材にアクセスできるため、複数の国や地域に事業を展開する利点はあります。

これらを最大限に活用するには、どのようにして移転価格と国際取引を効率的かつ戦略的に確立していくかを理解することが重要です。

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