中規模法人のための移転価格セミナー

※以下は、上記セミナー全11回の最終回を掲載しています。

(第11回) 移転価格ポリシーと移転価格文書

 

移転価格の実務において「移転価格ポリシー」という用語はよく使われていますが、移転価格ポリシーは、次のとおり、移転価格文書化制度導入の前後で、その内容と役割がやや質的に変容したように思われます。

 

1.移転価格文書化制度導入前における「移転価格ポリシー」

「移転価格ポリシー」は、本来的な意味としては、多国籍企業グループが定める「国外関連者との間の取引について、その価格が独立企業間価格で行われるように設定するための価格設定方針・運用ルール」ということになります。

しかしながら、移転価格文書化制度導入前は、多国籍企業グループとまでは言えないような国外関連者が数社しかない企業グループにおいては、ある特定の移転価格の課税リスクのある国外関連取引について、ローカルファイルのような文書を作成し、これを「移転価格ポリシー」としているケースも多く見受けられました。

すなわち、国外関連者が数社しかない企業グループは、移転価格文書化制度がない状況において、ローカルファイルのような移転価格ポリシーを自主的に策定することにより、一定の国外関連取引に係る移転価格の課税リスクに備えていたのです。

 

2.移転価格文書化制度導入後における「移転価格文書」と「移転価格ポリシー」

「移転価格文書」は、一般的には「移転価格が適正に算定されていることを説明する文書」ということになりますが、移転価格文書化制度のもとでは、ローカルファイル、CbCレポート、マスターファイルということになるでしょう。

この場合、「移転価格ポリシー」は不要になったかというとそうではなく、本来的な意味の移転価格ポリシーを策定しておく必要があります。一定の国外関連取引について移転価格文書化が義務化され、税務調査において調査官から要請があれば義務化基準以下の国外関連取引についても文書提出が義務付けられたため、むしろ必要性が増したと言えるかもしれません。

すなわち、法人が行っている国外関連取引を取引種類(棚卸取引、役務提供取引、無形資産取引、企業内役務提供取引、金融取引等)ごとに分類し、取引類型ごとに機能分析を行い、独立企業間価格の算定方法を決定し、全体として整合する価格設定方針及びその運用ルールを策定し、「移転価格ポリシー」としてまとめることにより、企業グループ全体として整合性のとれた移転価格リスク管理ができることになります。

なお、移転価格ポリシー策定の過程で、比較対象取引を選定するなどして実際に個別の国外関連取引について適正な移転価格の範囲の算定までを行うという考え方もありますが、移転価格ポリシー策定の段階では機能分析と独立企業間価格の算定方法を決定するにとどめ、個別の国外関連取引に係るローカルファイルの作成段階において、比較対象取引の選定や適正な移転価格の範囲の算定を行うとするのがよいでしょう。

連結売上1000億円以上の企業グループに義務付けられるマスターファイルは、この移転価格ポリシーに事業概況等の情報を付加すれば作成できることになると考えられます。また、ローカルファイルの作成のみが義務付けられている企業グループにおいても、移転価格ポリシーを策定することにより、潜在的に存在する国外関連取引(IGS等)や今後発生するかもしれない国外関連取引についても移転価格リスク管理ができるという効果があります。

国外関連取引を行う中規模法人グループは、国外関連者が数社しかない場合でも、現に認識している国外関連取引のみならず、潜在的に存在する国外関連取引や今後行う可能性がある国外関連取引についても適用可能な移転価格ポリシーを策定し、これを国外関連取引を行う部署のみならず、国外関連取引を行う可能性のある部署を含め社内全体で共有し、国外関連取引に係る移転価格課税リスクに備えておく必要があると考えます。

 

以上で、シリーズで掲載してきました《中規模法人のための移転価格セミナー》を終了します。今後は、不定期にはなりますが、移転価格のトピックを掲載していきたいと考えています。

 

なお、現実に行われている国外関連取引においては、様々な事情等が存在し、価格設定やローカルファイルの作成等において教科書通りにいかないことが多いのが現状です。弊社においては、企業様の個々の事情に応じて最適な移転価格文書の作成やきめ細かなアドバイスを行っています。移転価格に関するご質問、ご依頼等がございましたら、弊社までご連絡いただければ対応いたします。

 

以上

 

※≪中規模法人のための移転価格セミナー≫は本回をもちまして掲載終了となります。本セミナーおよび移転価格に関するご質問・ご要望は、HLSグローバルJapan@HLS-Global.jpまでお問い合わせください。

 

移転価格セミナーシリーズの記事: