※以下は、上記セミナー全11回のうち第8回を掲載しています。
(第8回)ローカルファイル作成の留意点
1.ローカルファイルにおける作成項目
前回までは、移転価格税制の概要及び独立企業間価格の算定方法とその適用場面について説明してきましたが、法人が国外関連取引について独立企業間価格を算定しようとする場合、前回までの知識だけではまだ不足するノウハウのようなものがあります。平成28年度税制改正で導入された移転価格の同時文書化義務におけるローカルファイルは、いわばそのノウハウ部分を文書に整理したと言ってもいいでしょう。
法人は、国外関連取引に係るローカルファイルを作成して初めてその独立企業間価格が算定できることになりますが、法人が保有する情報や資料からだけではローカルファイルは完成できません。
ここでは、第2回の3で示した国税庁HPに掲載されている国税庁ローカルファイル・サンプルのサンプル1の次の8つの大項目(当社は日本法人、A社は国外関連者です)について、作成のポイントを説明したいと思います。なお、ここでは、当社は有価証券報告書は作成していないが「会社案内」は作成しており、A社は「アニュアルレポート」を作成しているものとして説明します。
1 当社及びグループの概要
2 国外関連者の概要
3 国外関連取引の詳細
4 国外関連取引に係る当社とA社(国外関連者)の機能及びリスク
5 当社及びA社の事業方針等
6 市場等に関する分析
7 独立企業間価格の算定方法等
8 A社との国外関連取引に密接に関連する取引について
2.当社及びグループの概要
法人グループが、どのような事業を行っているかを記載します。
まず、「会社案内」にあるような、グループ全体の事業の概要を記載しますが、最終的には国外関連取引にフォーカスしていくので、さらに国外関連者について、2~3社以内であればそれぞれ、多数であれば、例えば北米地域、アジア地域、欧州地域に区分し、グループ企業が行っている事業や最終期の実績、従業員数等の概要についても記載します。
最低限グループ企業についての資本関係図は作成しておく必要があります。
3.国外関連者の概要
ローカルファイル作成対象の国外関連取引の相手先である国外関連者の概要について、設立時期や資本関係等の基本情報のほか、国外関連取引に係る製品等について、法人とどのような取引を行い、社内でどのような業務を行い、第三者とどのように取引しているかの概要についても記載します。
4.国外関連取引の詳細
次の作業を行います。
- 取引図を作成(国外関連取引の確認)
まず、国外関連取引に係る取引図を作成します(下図参照)。
イメージとしては、《第5回》~《第7回》における独立企業間価格の算定方法にある図に、最終期における大まかな取引金額(グループ外の第三者に対する販売価額を含む)や当社及びA社の国外関連取引に対する役割等の情報を付加します。国税庁ローカルファイル・サンプル(97頁、116頁)や国税庁ローカルファイル例示集(7頁)を参考に作成すればよいでしょう。
なお、図の作成においては、製品等に係る国外関連取引のほか、対価の収受を伴っていないロイヤルティ取引や役務提供取引がないかどうかを確認する必要があります。
- 国外関連取引に係る情報を記載
グループ内情報をもとに、国外関連取引に係る取引の内容、契約関係、価格設定、取引の概要等を記載します。
国税庁ローカルファイル例示集(13~16頁)を参考にしてください。
- 国外関連取引に係る損益を記載
本来は、国外関連取引ごとに当社及びA社の損益を算定します。
しかし、中規模法人の海外子会社は、通常は、例えば製品等の製造販売等一つの国外関連取引に係る事業しか行っていないため、A社については法人そのものの損益とする場合が多いですが、A社が国外関連取引以外の取引を行っている場合はその損益を除外します。当社については、対A社取引に係る損益を算定します(これを「損益の切出し」又は「切出し損益」といいます)が、独立企業間価格の算定方法として取引単位営業利益法(TNMM)も視野にいれるため、営業利益ベースの損益まで算定します。この場合、販売費・一般管理費等の共通経費については合理的に按分します。
切出し損益の算定の仕方については、国税庁ローカルファイル例示集(17~18頁)を参考にしてください。
5.国外関連取引に係る当社とA社の機能及びリスク
この部分は重要ですので、次回《第9回》で説明します。
6.当社及びA社の事業方針等
当社の事業方針は「会社案内」、A社の事業方針は「アニュアルレポート」をもとに作成すればよいでしょう。
定性的基準「事業戦略の類似性」によりスクリーニングを行う際に参考にします(《第9回》参照)。
7.市場等に関する分析
品等に係る市場の特性があればそれを記載します。特に優遇税制、送金規制等の政府の政策がある場合には記載します。
市場の特性がある場合、取引価格や営業利益等に影響を与えるどうか、影響を与えるとした場合、何等かの調整が必要かどうかを検討する際に参考にします。
国税庁ローカルファイル例示集(19~20頁)を参考にしてください。
8.独立企業間価格の算定方法等
次の2つに区分して記載します。
- 選択した独立企業間価格の算定方法等を記載
選択した検証対象法人、独立企業間価格の算定方法、利益水準指標(PLI)等を記載し、その独立企業間価格の算定方法が最適な方法であることを説明します。
国税庁ローカルファイル例示集(24~27頁)を参考にしてください。
- 選定した比較対象取引を記載
この部分は、テクニカルな部分ですので、次々回《第10回》で説明します。
9.A社との国外関連取引に密接に関連する取引について
例えば、当社がB製品の基幹部品をA社に輸出し、A社がB製品を製造して第三者に販売している場合において、当社からA社に対するB製品の製造技術の使用許諾取引や技術指導等の役務提供取引があれば、製品の基幹部品に係る国外関連取引に密接に関連する取引になります。
関連する複数の国外関連取引を一の取引として独立企業間価格を算定する場合の判断の参考となります。
国税庁ローカルファイル例示集(22~23頁)を参考にしてください。
以上
※《中規模法人のための移転価格セミナー》の次回掲載は来月の予定です。
本セミナーおよび移転価格に関するご質問・ご要望は、HLSグローバルJapan@HLS-Global.jpまでお問い合わせください。