中規模法人のための移転価格セミナー

※以下は、上記セミナー全11回のうち第1回を掲載しています。

(第1回)移転価格への対応に不慣れな中規模法人向けの実務セミナー

1.はじめに

移転価格税制は、従来は、海外に関連会社を有する一部大企業において問題になる制度であり、中規模法人においては、仮に海外に数社の関連会社を有しているとしても、その関連会社との取引が数億円程度であれば、あまり問題にならないとされてきました。

しかしながら、国際的なBEPSの議論を踏まえ、世界的に移転価格税制の文書化が導入されることとなり、日本においては、平成28年度税制改正において移転価格の同時文書化義務が導入されました。対象取引は、棚卸取引で50億円以上、無形資産取引で3億円以上の取引という下限が設けられたものの、それ以下の取引であっても、税務調査において調査官に求められた場合には、60日以内に文書化と同様の文書を提出することが義務付けられました。また、関連会社が所在する国(特に東南アジア)においても次々に移転価格税制における文書化義務が導入され、取引規模が小さくても文書化を規定している場合が多くあります。したがって、中規模法人であっても、海外に進出している法人にとっては移転価格の文書化対応が避けて通れない状況になってきました。

一方、移転価格税制は、次のような経緯から実務が先行し、これに制度が追い付いてきた感があり、現在の実務は、一般的な国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法として、製品等の同種性・類似性を重視した基本3法(独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method :CUP法)、再販売価格基準法(Resale Price Method :RP法)及び原価基準法(Cost Plus Method :CP法))よりも、取引当事者の機能の類似性と公開情報からの比較対象取引の選定可能性を重視した取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method :TNMM)が採用されることが多くなっています。そして、この「取引当事者の機能の類似性」の説明と「公開情報からの比較対象取引の選定」については、実務におけるノウハウが蓄積されている部分であり、初めて移転価格に対応しようとする中規模法人において高いハードルとなっているところです。

2.制度導入から現在に至るまでの執行の概要

(1) 制度導入時の課税実務(基本3法中心)

日本の移転価格課税の実務は、制度導入(1986年)当初からしばらくの間は、主として外資系内国法人の調査を行っていました。そして、日本の制度が製品等の比較可能性を重視した基本3法を優先的に適用するよう規定していたため、課税当局は、部内情報から製品等の同種性・類似性が高い比較対象取引を選定し、独立企業間価格の算定方法としては主として基本3法を適用して課税していました。
なお、制度導入当初は、現在独立企業間価格の算定方法として主流となっているTNMMは採用されていませんでした。

(2) 課税に係る相互協議とシークレット・コンパラの問題

一方、移転価格課税実務で先行していた米国は、公開情報からの比較対象取引の選定可能性を重視した比較対象利益比準法(CPM)により移転価格課税を行うようになっており、日米間の取引に係る移転価格課税について両当局間で相互協議を行う際に、独立企業間価格の算定方法としてどの方法を採用するかという段階で合意が難しい状況になっていました。また、日本当局が課税に採用する基本3法については、当局の部内情報から比較対象取引を選定していたため、そもそも課税当局のみが適用可能で、法人において検証できない(シークレット・コンパラ)という問題が指摘されていました。

(3) 事前確認(APA)シフトとTNMMの導入

日米間で国外関連取引を行う大規模法人グループは、多額の移転価格課税のリスクを回避するため相互協議を伴う事前確認(APA)の申出をするようになりましたが、法人がAPAの申出において比較対象取引を選定しようとすると、公開情報から選定せざるを得ないため、独立企業間価格の算定方法は自ずと米国当局が採用するCPMによることになりました。
その後、当初はCPMに批判的だったOECD租税委員会においてもCPMと類似するTNMM(※)の採用を認めることとなり、日本においてもTNMMが導入(2004年)されました。
※ CPMは取引当事者の一方の法人の全体の営業利益率を比較対象法人の営業利益率と比較・検証する方法で(比較対象法人と比較する取引当事者の一方の法人を「検証対象法人」といいます)、TNMMは検証対象法人における国外関連取引の損益を区分し、その取引単位で営業利益率を比較・検証する方法です。しかし、実務ではTNMMは検証対象法人の法人全体の取引を一つの取引単位として適用する場合が多く、その場合は結果としてCPMと同じ独立企業間価格の算定方法ということになります。

(4) ベスト・メソッド・ルールの導入

日本の移転価格税制は、TNMM導入後も基本3法の優先適用を規定していたため、移転価格課税やAPAの場面において基本3法が適用できないという説明をする必要がありました。しかし、現実問題としては公開情報のみからでは基本3法の適用が困難な場合が多かったこともあり、基本3法の優先適用を改め、すべての独立企業間価格の算定方法のうち最も適切な方法を採用することとする改正が行われました(2011年)。

本紙上セミナーでは、移転価格税制への対応に不慣れな中規模法人向けに、今回を含め11回にわたって一般的な移転価格の実務について解説していきたいと思います。なお、あくまでも一般的な解説ですので、個別の事項については別途ご相談ください。

以上

※《中規模法人のための移転価格セミナー》の次回掲載は来月の予定です。

本セミナーおよび移転価格に関するご質問・ご要望は、HLSグローバルJapan@HLS-Global.jpまでお問い合わせください。

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